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電気設計者の実態調査
Zuken Sensor Special issue
今再び、電気設計者へのニーズが増加 キーワードは、設計業務への注力、スキルアップ、技術伝承
Zuken Sensor, Special issue (「図研センサー」特別号) 2015年11月26日発行
制作・発行: 株式会社図研
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2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災の影響など我が国の産業は長らく厳しい経済環境に苦し
んできたが、ようやく多くの分野において国内企業の業績は回復しつつある。この数年で行き過ぎた円高の
是正も定着し、製造業では国内回帰の動きも見られ、国内拠点への設備投資は上向いている。しかしこの傾
向は、単純にかつての状況に戻りつつあるというのではなく、様々な変化も包含していると考えられる。特
に製造業にとってグローバル市場での厳しい競争やその中で勝ち抜くためのサプライチェーンやエンジニア
リングチェーンの最適化は、たとえかつてのような円高を前提にせずとも、今後も重要な課題であり、それ
に応じて「グローバル展開の中での」日本の開発・製造拠点の役割は、変化していくだろう。
製品開発の面では、電装化の進展が著しい自動車開発の分野は言うに及ばず、全てのモノがインターネット
でつながることにより様々な新しい価値を生むIoT(Internet of Things)社会の進展が、これまでエレクトロ
ニクスと縁遠かった商品をもセンサーや無線通信などの要素を含むエレクトロニクス製品へと変化させ、こ
れらの製品開発においてエレクトロニクス設計の重要性が高まっている。一方、このように様々な分野にお
いてエレクトロニクス設計への需要が高まる中、高いスキルを持ってこれまで日本のモノづくりを支えてき
た多くの熟練設計者がリタイアの時期を迎えつつあり、次の世代への技術伝承が多くの企業において喫緊の
課題となっている。
モノづくりをソフトウェアとサービスで支えてきた当社グループは、急激に変化しつつある現在の経済環
境・市場環境の中、電気設計者を取り巻く状況はどのようなものかを把握すべく今回の調査を実施した。こ
の調査が、いままさにその活躍が期待される電気設計者の業務効率化と、より価値ある業務への注力を促す
ための施策を考える一助となれば幸いである。
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1.調査概要 調査方法:インターネット調査
調査期間:2015年9月8日~18日
調査対象:図研メールマガジン「club-Z」読者、ジィーサスメールマガジン「ZSAS NEWS」読者
Gichoビジネスコミュニケーションズ社
ターゲティングメール読者から抽出した対象者
有効回答者数:255名
回答者プロフィール:
経営者・
役職, 6%
部長クラ
ス, 11%
次長・課
長クラス,
19%
係長・主
任クラス,
31%
一般社員,
30%
その他, 3%
34.1%
27.1%
15.7%
23.0%
0.0% 20.0% 40.0%
回路設計
基板設計
解析
CAD/技術管理
役職 担当業務 複数回答
コンシューマ向け
AV機器・通信端末,
11.4% 一般電子部品・電
源・電池関連, 8.6%
センサ・計測・制
御・検査・試験機
器関連, 4.3%
レーザ・光学機
器・装置関連, 2.0%
画像処理・液晶・
ディスプレイ装置
関連, 1.6%
コンピュータ・通
信・情報処理関連,
5.9%
産業用機器・装置
関連(産業用ロ
ボット・工作機械
含む), 21.6%
精密機器・装置関
連, 7.8%
半導体・集積回
路・実装基板・配
線板製造装置関連,
3.5%
自動車(部品含
む)・物流・搬送
機器関連, 12.5%
油空圧・流体管理
機器・装置関連,
0.8%
化学・医療・福祉機
器装置・製薬関連,
4.7%
その他, 15.3%
業種
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2.設計者の社内リソースは、「不足感あり」が8割超。 電気設計者の業務時間は、今後「増加」傾向か
長らく厳しい市場環境に晒されたエレクトロニクス製造業では、事業再編や統合、場合によっては海外移管
や撤退など様々なリストラクチャリングを経て、全体として電気設計部門も縮小傾向であったと考えられ
る。しかし前述のごとく、現在は広い分野で電気設計のニーズが増加し、特定の技術スキルをもった電気設
計者は様々な企業から「引く手あまたの状況」とも言われている。
長期間にわたって縮小傾向にあった国内の電気設計分野での急激な需要増の中、現役の電気設計者における
業務の繁忙感はどうだろうか。
調査によると、設計者の人的リソースに関しては、「常に不足している」「不足する時もある」という回答
が8割を占めた。(図01)一方で電気設計者の人員数については、半数以上が「横ばい」であり、「増加」
と「減少」が拮抗する状況との結果であった。(図02) これは、電気設計者のリソースに不足感はあるもの
の、企業が現状のリソースでやりくりする努力をしているのか、もしくは必要な電気設計者を十分確保でき
ていない状況が考えられる。また、業務時間については、回答者の3割近くが業務時間が増加したと答えてい
るが、現在の「電気設計への需要増」にリソース確保が追いつかない場合、この割合は今後増加していくと
思われる。(図03)
常に不足し
ていると思
う, 31%
不足する時
もある,
49%
適切な人数
である,
11%
余裕があ
る, 3%
わからな
い, 5%
図01 社内における電気設計者の人的リソース
80% 横ばい,
56%
減少
22%
図02 社内における電気設計者の人数変化
増加 22%
横ばい,
60%
減少
13%
図03 電気設計者における業務時間の変化
増加 27%
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3.電気設計者の半分以上が要求される技術レベルの上昇を認識するも 自身の技術レベル向上には不安
近年の電気設計においては、外部製品との各種インターフェース、無線通信技術の実装や、ウェアラブル端
末などの開発が増加することによる「小型・軽量化」「省電力化」の要求など、様々な要素を高次元で満た
す必要性が高まっていると考えられる。ここでは、実際に電気設計者たちが感じている いま彼らに「求めら
れる技術レベル」と 「自身の技術レベル」の状況について調査を行った。
電気設計者に求められる技術レベルについては、5割超が「上がっている」と回答したが、自身の技術レベ
ルについて 「向上している」は3割弱に留まり、「変わらない」が5割を超えている。(図04)これは、市
場からの要求が高まっているにも関わらず、自身がその要求に対して追いついていないという不安を感じて
いる設計者が増えつつあると読み取ることができる。
52.9%
29.2%
35.7%
51.9%
7.8%
15.0%
3.5%
3.9% 上がっている
変わらない
下がっている
わからない
図04 「自身の電気設計の技術レベル」と「設計者に求められる電気設計の技術レベル」の変化
求められる技術レベル
自身の技術レベル
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今回の調査では、電気設計者が技術知識/スキルの向上が必要と考えている具体的な分野についても調査し
た。大きな偏りはなく広く様々な分野わたってスキル向上のニーズがあげられているが、中では2割の回答
者が「EMC設計」と回答しており、その他よりやや多い割合となった。(図05)
13.1%
10.6%
20.3%
13.7%
12.1%
13.7%
10.1%
2.7% 1.2%
2.5%
図05 知識/スキルを高めていくべき分野
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技術知識の習得やスキルアップの状況について、およそ6割の回答者が「必要性は感じているが、取り組め
ていない」と回答した。「技術知識の習得やスキルアップに努めている」と回答した3割超を加えると、全
体の9割を占める回答者が技術知識の習得やスキルアップに関して積極的な意識をもっていることを示して
いる。(図06)
これは日本の電気設計者の技術力向上への意識の高さを示しているとともに、何らかの理由で多くの設計者
が現実には十分に取り組めていないという実態も顕しているといえる。
技術知識の習得
やスキルアップ
に努めている,
35% 必要性は感じて
いるが、取り組
めていない
57%
あまり必要性を
感じていない,
5%
わからない, 2% その他
0
図06 技術知識の習得やスキルアップ状況
92%
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4.多くの設計現場で「非設計業務」が増加傾向
以前から電気設計者は、設計作業そのものではない「非設計業務」に多くの時間を費やしていると言われて
きた。自動化や分業化が進むことで設計自体の効率化はかつてより進んでいるが、それに応じて設計部門
内、部門間、場合によっては外部の協力会社とのデザインレビューやデザインレビューのための準備作業な
どが増加しているという話はよく耳にする。ここでは、現在の電気設計者がどの程度「非設計業務」に時間
を費やしているかについて調査・分析を行った。(この結果は、実際に計測を行ったということではなく回
答者が推定するところの割合を選択したものであり、回答者の主観(実感)がある程度含まれた結果である
可能性があることを付記しておく。)
一日の業務時間の中で、半分以上の時間を非設計業務に費やしていると回答した設計者は全体の約3分の1
を占めた。(図07)また、全体の4割が非設計業務が増加していると回答した。多くの設計現場で非設計業
務の負担が増加傾向にあることが覗える。(図08)
前述の調査結果で「業務時間が増加した」という電気設計者だけでなく、「横ばい」「減少」と回答したそ
れぞれの電気設計者においても、大きな割合で非設計業務が増加していると回答した。(図09)必ずしも業
務量と非設計業務量が比例して増加しているわけではないことがわかる。
※設計業務は、回路設計、基板設計、解析、検証作業などを指します。 ※設計業務には、部品の登録など設計準備作業や会議の資料作成など含みません。
3%
30%
31%
24%
11% 0%
~25%
~50%
~75%
~100%
図07 一日あたりの非設計業務の業務時間割合
35%
横ばい
51%
減少
9%
図08 非設計業務の業務量変化
増加 40%
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業務時間が増加 業務時間が横ばい 業務時間が減少
一日の非設計作業の割合
増加
減少
横ばい
図09 業務時間全体の変化における、一日の非設計作業の割合
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5.約半数の電気設計者が、設計付帯業務も兼務
「非設計業務」の中で、電気設計に関わる代表的な設計付帯業務として設計で使用するツールの管理が挙げられ
る。設計支援ツールであるCADが電気設計者の業務に与える影響について、「CAD部品ライブラリ登録」と「設計
環境(CADや設計データ)管理」の、2つの観点から調査を行った。
CAD部品ライブラリ登録業務は、約5割の回答者が「設計者自身」が兼務で行っていると回答。「専任者がいる」
と回答した設計者は、2割に留まっている。(図10)設計環境(CADや設計データ)管理業務についても、 5割の回
答者が「設計者自身」が兼務で行っていると回答し、「専任者がいる」はわずか5%に留まった。(図11)
当然の結果とも言えるが、この両業務を設計者自身が行っている場合とそうでない場合を比較したとき、業務の
50%以上を非設計業務に費やしてると回答した設計者の割合は、設計者自身がこれらの付帯業務を行っている場合
に顕著に高くなっており、これらの付帯業務が電気設計者の業務を増加させていることがわかる。(図12、13)
CAD/技術
管理部門
24%
ライブラ
リ登録専
任者
21%
外部委託
3%
その他
3%
設計者 自身 49%
図10 CAD部品ライブラリの登録業務
CAD/技術
管理部門
40%
ライブラ
リ登録専
任者
5 %
外部委託
3%
その他
4%
図11 設計環境(CAD/設計データなど)の管理業務
設計者 自身 48%
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設計者以外 設計者自身
一日の非設計作業の割合
50%以上
50%以下
図12 CAD部品ライブラリ登録の担当者 × 一日あたりの設計作業以外の割合
図13 設計環境管理の担当者 × 一日あたりの設計作業以外の割合
設計者以外 設計者自身
一日の非設計作業の割合
50%以上
50%以下
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参考情報)
設計者によってツール活用のスキルレベルにばらつきがある
ほとんどの設計者がツールの機能を十分活用できておらず 使いこなせていない
CADなどツールの最適な活用ができているかどうかわからない
設計要件に応じてCADなどツールの最適な活用ができている
その他
図14 設計者における設計環境ツールの活用状況
図15 CAD部品ライブラリの現状の状態
2.2%
6.0%
12.2%
4.2%
11.7%
16.2%
20.4%
27.1%
0.0% 10.0% 20.0% 30.0%
その他
わからない
特に問題ない
登録専任がいて後継者も育てている
登録専任の後継者がいない
登録者ごとに品質がバラバラ
データの整備ができていない/古いデータが残っている
CAD部品ライブラリ登録のノウハウが人に依存している
59%
12%
9%
16%
3%
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6.非設計業務の業務負荷が高い設計者ほど自身の「設計技術の低下」を 意識
前述のとおり調査結果から、多くの電気設計者において、非設計業務が増加していることがわかった。この
状況が電気設計者にどんな影響を与えているかを説明するためには、さらなる調査が必要であり今回の調査
だけで断じることは難しい。参考として、今回の調査の中から「一日あたりの非設計業務の時間割合」と
「自身の技術力の傾向」の相関を分析した。
これによると、一日あたり非設計業務に費やす時間を、「50%以下」と回答した群と比べ、「50%以上」と
回答した群では、自身の技術レベルが「向上している」とした割合に大きな差は無かったが「低下してい
る」との回答数に顕著な差が見られた。 (図16)
この結果のみから非設計業務を行う割合が多いほど、設計者の技術力は低下すると判断することはできな
い。しかし、実践的な設計業務を行う時間が少ない設計者ほど、自身の技術力の状態に「不安」感を抱えて
いることを示しているといえるのではないだろうか。
26.2% 27.5%
50.6%
41.8%
9.8%
20.9%
4.3% 2.2%
9.1% 7.7%
0.0%
10.0%
20.0%
30.0%
40.0%
50.0%
60.0%
~50% ~100%
向上している
変わらない
低下している
わからない
無回答
図16 一日あたりの非設計業務の時間割合×自身の技術力向上
10%増
自身の電気設計 技術レベル
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7.「技術伝承」への取り組みは多くの現場で不十分
国内製造業では、設計部門、電気設計者に限らずこれまで「強い日本のモノづくり」を支えてきた多くの熟
練者がリタイアを迎え、次の世代への技術伝承が多くの企業において重要な課題となっている。前述のとお
り、長く続いた円高や厳しいグローバル市場競争で、国内の技術力の低下や空洞化といった問題も背景にあ
り、将来の日本のモノづくりにとって大きな不安要因となっている。
今回の調査において、技術伝承/若手育成に「取り組んでいて伝承できている」と回答したのはわずか7%
であった。「取り組み始めているが十分効果がでていない」との回答が最も多く(44%)、約半数が何らか
の形で技術伝承に取り組んでいることがわかる。一方で、残り半数は組織的に取り組みすら行われていない
という結果になった。残念ながら、技術伝承がうまく進んでいるとは言い難い状況である。 (図17)
人材育成への取り組みは、目先の業務と比べ優先度が下がってしまうため後回しになりやすい。折しも経済
状況が好転し、日常業務が増加傾向にある中、今回の調査結果からも、現状のリソースでなんとか回ってい
る状態を是とすることは大変危険なことである。特に企業の経営層は、将来の事業を支える根幹となるモノ
づくり人材をいかに充実させていくか常に意識して運営していくべきであり、設計者一人一人が技術力を磨
き、会社としての技術力が向上していくような環境を構築しなければならないだろう。
取り組んでい
て伝承できて
いる
7%
取り組み始め
ているがまだ
十分効果がで
ていない
44%
何から取り組
むべきなのか
わからない
7%
取り組んでお
らず属人的
34%
取り組む
予定もない
4%
わからない
2%
その他
2%
図17 設計技術の伝承/若手育成の状況
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の内容の全体か一部かを問わず、許可なく複製・転載することを禁じます。
◆ 電気設計者の人的リソースは、全体の8割が「常に不足している」「不足する時もある」と
回答し、人材の不足感を強く示している。業務時間の変化は3割が増加と答え、電気設計関連
業務が増加傾向にある。
◆ 電気設計者に「求められる技術レベル」は上昇傾向あり。一方で、「自身の技術レベル」は
変わらないと回答が5割を超える。設計者たちに、市場からの要求に追いついていない不安感
があることが読み取れる。
◆ 3分の1の設計者が、一日の業務時間の半分以上を非設計業務に費やしていると回答。さら
に、全体の4割は非設計業務に関わる割合が増大傾向にあると示している。
◆ 半数が、設計付帯業務である「CADライブラリ登録」「設計環境管理」を設計者自身が担当し
ていると回答。設計者が付帯業務を兼務することで、日々の業務時間を圧迫している。
◆ 非設計業務の業務負荷が高い設計者は、業務負荷の低い群と比べ「自身の技術レベル」の状
態に不安を抱えている傾向にある。
◆ 電気設計者の技術伝承/若手育成が、「取り組んでいて伝承できている」はわずか7%のみ。
全体の半数が「何らかの形で取り組み始めている」としているが、残り半数は取り組みすら
まだ行われていない。
まとめ